『白い巨塔』 [Cinema]
※映画の感想・評論(もどき)の文章では基本的にストーリーに触れる部分があるため未見の方はご注意を。
1966年大映東京
監督・脚本:山本薩夫
原作:山崎豊子
脚本:橋本忍
出演:田宮二郎/小川真由美/東野英治郎/滝沢修/船越英二/田村高廣/小沢栄太郎/藤村志保/加藤嘉/加藤武/下絛正巳
評価:★★★★☆
昔一度見たことがあったが、最近放送されたものを録画しておいたので、それを見た。
今では、やはりほとんどの人が『白い巨塔』といえば昨年放送された唐沢寿明主演のものを思い浮かべるだろうが、この映画版が最初の映像作品であり、しかも力強い傑作となっている。
この作品ではドラマとは異なり、いわゆる第二部(「学術会員選挙戦」と「誤診裁判第二審」)は描かれていない。すなわち「教授選挙戦」と「誤信裁判第一審」までの物語となっている。それでも相当なボリュームであり、これをまとめ上げた橋本忍の脚本は見事と言える。
ただし、ドラマを見た後では若干物足りない面もなくはない。ひとつには財前五郎の母親の描写が前半少し描かれるが、後半になるとそれは全く生かされていない。それと誤診により死んでしまった佐々木庸平とその家族の描写もサラッとしていて、感情移入がしにくい。そしてなにより友人でありライバルでもある里見脩二の描き方はこの作品のもう一方の対立軸でもあるのにもかかわらず、ただ医療というものに対して理想と信念を持っているという真面目な医師というだけであり、財前の友人として重きを置かれていないのが残念である。
しかしながら、それらを描こうとすれば、焦点がぼやけてしまって、大学病院内のただの群衆劇となってしまいかねないので、この財前を中心に置いたストーリー運びはやむを得ない選択だったのであろうと思う。
画面の力強さはとにかく比類がない。脇を固める役者の層の厚さからもそれを感じる。こうした昔の作品を見るにつけ、今の日本映画は主役ばかりが目立ち(演技がいいかどうかはまた別の話)、名バイプレーヤーともいうべき役者が本当に少なくなっているのを実感する。また、手術シーンの迫力も凄い。これは白黒映画だからこそなし得たものでもあろう。カラーではとても直視できまい。
それから、なんといっても主役の田宮二郎だ。この映画と後のドラマを見れば、財前として他の役者を考えるのは難しいだろう。とはいえこの作品ではまだ年齢が若かったため、教授となってから髭を蓄えて貫禄を出そうとしているのが少し違和感を感じてしまう。だがそれは些細なことであって、野心に燃える医師を熱演しており、まさに財前ここにありという感じである。
先に書いたように、この映画は「誤信裁判第一審」で財前側が勝利し、里見助教授が大学を去るところで終わる。そのため、決して後味のいいものとはなっていない。医師として真面目な人間が淘汰されていく世界でやりきれなさだけが残るのである。この点、脇の登場人物の描写が薄いこととあわせてやや不満の残る部分であると言えよう。
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