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『天と地と』 [Cinema]

※映画の感想・評論(もどき)の文章では基本的にストーリーに触れる部分があるため未見の方はご注意を。

1990年角川春樹事務所/東映
監督:角川春樹
脚本:鎌田敏夫/吉原勲/角川春樹
原作:海音寺潮五郎
音楽監督:小室哲哉
出演:榎木孝明/津川雅彦/浅野温子/財前直見/野村宏伸/伊武雅刀/大滝秀治/夏八木勲/渡瀬恒彦
評価:★☆☆☆☆

角川映画渾身の時代劇大作。公開当時、主役の渡辺謙の撮影中の病気降板や、音楽シーンを席巻していた小室哲哉が音楽を担当するとか、合戦シーンはカナダでロケをするなど…とにかく話題だけは万全であった。しかしそれらの話題は話題だけ、実際の映画の映画はその話題の大きさに遠く及ぶことなく見ているのがただただ辛い映画となった。

この頃、黒澤明の『乱』に既に出会っていて、戦国絵巻の美しさというものに対して結構関心を持っていたし、その意味でも期待感は少なからずあったのであるが、そうした黒澤時代劇は見てみると製作者たちもかなり意識したであろうことは見て取れるのだけれども、ここで比較をしてしまっては黒澤監督に申し訳がないというくらい最初から勝負が付いていた。

普通はどんなにつまらないと思う映画でもいいところがどこかにあるようなものなのだが、これにはひとつもない。まず脚本がダメだろう。細かい場面場面の寄せ集めで、ひとつの作品としての流れができていない。だから見終わっても何を描こうとしていたのかが全く分からないのだ。上杉謙信が主役のはずなんだけど、主役として作品の芯になっていない。またその場面のつなぎをナレーションでおこなっているので、ドラマとして観客を取り込むことができず、常に観客は作品をただ傍観するだけとなってしまっている。これでは登場人物の感情に共感もできなければ反発もできず、とにかく「あー、なにかやってるなあ」と眺めるだけだ。

それから鳴りもの入りでの起用であった小室哲哉の音楽もダメだ。まずは電子楽器の音が根本的に戦国絵巻に全く合っていない。いやシンセサイザーを使ってももう少し重厚な音にもできようが(ヴァンゲリスなんかがいい例かも知れないけど)、ぺらぺらの軽い音で画面の上っ面をなでるだけとなっているのが作品を軽いものとしてしまっている。しかも、これは製作期間の問題などもあるのだろうけれど、場面の長さに合わせて作曲されたものではなく、いくつかのパターンで作られた音楽を編集時に重ねているために、絵と音が合致せず、さらに曲の前後は必ずフェード処理という感じで、これも作品の安っぽさを助長しているような気がするのだ。

また期待した合戦シーンもいいところがない。カナダロケされた場面は、あからさまに日本ではないことが分かってしまっているし、せっかくの合戦シーンも陣形を見せたいためだろうか、引きの絵が多く迫力に欠けている。さらに言えば、上杉と武田を赤と黒に分けたのもその陣形を効果的に見せようとの計画だったのだろうが、これもアイデアとしては、既に黒澤明が『影武者』で武田軍の「風」「林」「火」「山」を4色に分けたり、次の作品『乱』でも、3兄弟の軍勢と近隣の軍勢をそれぞれ色分けするなど、決して新しいものでもなく、上杉軍として戦っていた時は黒い甲冑の渡瀬恒彦演じる宇佐美定行が、上杉と袂を分かった時に緑の甲冑になるのも現実的ではなく、結局はただ絵面をよくするためだけの安直な考えだったのね、と興醒めとなってしまった。

公開当時見た時にも同じように感じていたと思う。けれども月日が過ぎ、漠然とどんな映画だったけかなあ、と思っていたところへWOWOWで放映されたので、それを今回久しぶりに見たわけなのだが結局結論は一緒だった。

ちょっと悲しい映画ではある。

天と地と 天の盤

天と地と 天の盤

  • 出版社/メーカー: 角川エンタテインメント
  • 発売日: 2004/10/22
  • メディア: DVD

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ピカチュウ

前売り券を大量にばら撒いて、何気にヒットしましたね。
私もチケットをタダでもらって、見に行ったなぁ。
全編を通してヒドイのだが、特に小室氏の歌が酷かった。。。
by ピカチュウ (2005-05-15 19:20) 

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