安彦良和原画展 [Comic / Animation]
現在、八王子市夢美術館で「安彦良和原画展」が開催されている(2006年9月18日まで)。
あの、安彦良和の原画だ。だいぶ前に『機動戦士ガンダム』の記事で、その絵にどれだけ惚れ込んでいるか書いた、あの安彦良和。そうそう目にできる機会もあるまい。これは行くしかないだろう、ということで出かけていった。
ある時代にアニメにはまっていた世代には、安彦良和が手がけたアニメ作品に出会っていないものはいないだろう。展示作品も『わんぱく大昔クムクム』に始まり、漫画作品最新作の『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』まで、手がけた多くの作品を展示。正直これほどの規模の展示会とは思わなかったので驚きであった。
アニメ時代のものでは前述の『クムクム』、『コン・バトラーV』、『ライディーン』、『ザンボット3』に『ガンダム』。そして漫画・アニメ時代のものでは『アリオン』、『クラッシャージョウ』、『ゴーグ』、『ヴィナス戦記』など。さらに自作の小説や他の作家の小説の表紙や挿画で『シアトル喧嘩エレジー』、『ダーティペア』など。最後に漫画家に専念してからの作品で『ナムジ』、『ジャンヌ』、『虹色のトロツキー』、『王道の狗』、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』など…。他にも多くの作品が展示されていた。
まず漫画原稿についてだけれど、他の作家の原稿を見たことがあるのだが、こんなに綺麗な原稿ははじめてと言っていい。通常、締め切りに追われて描く場合が多いからか、どうしても原稿用紙は汚くなりがちだ。それをホワイトで修正して仕上げていることが多い。ところが違った。ホワイトがほとんどないのだ。一切ペンを使用せず、全て面相筆で書かれた原稿は、集中線なども綺麗に枠線内に納まっていて、枠線をはみ出した線をホワイトで消したりしていないのである。これは見ていて震えが来る程の感動を覚える。
さらに『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』に関しては、いわゆるネーム原稿も展示されていて、これは本当にアイデアスケッチというか、ストーリ−の流れを確認するためのものとして、かなり荒々しいタッチのものであったが、その次にレイアウト原稿なる鉛筆書きの原稿があって、これが本番の原稿とほぼ寸分違わぬ完成度なのだ。風に舞う木の葉の数や大きさ、位置までも、ほぼこの時点で完成しているのだ。
そしてその原稿に「上ピン」とか「下ピン」とかメモ書きされていて、このコマの絵でどこにピントを合わせているのかまでを考慮して絵を描いているというのがわかり、やはりもともとが映像作家なのだなと思わせもするのだ。漫画のひとコマひとコマに、そこまでの注意を払って絵を描くのは、アニメ時代に絵コンテを描いたりしていたことで培われてきたものなのかも知れない。
カラーのイラストも同様で、こちらも見るものの目線をどこに引きつけようとするかをしっかり計算されて描かれているのがわかる。特に最近の作品群では、ディテールをかなり細い線で描くようになっているので、そうした部分はピントがバッチリ合っている箇所で、見る人の目をそこに誘導させる場所となり、そこから外れた場所は輪郭線をはっきり描かなかったり、塗りの色をぼかすことでピントが合っていない表現をしっかりしているのだ。
だが最も目が釘付けになったのは、かつてその絵を手本として自分でもイラストを描いていた、その頃とにかく穴があく程見続けていた劇場版『ガンダム』のポスターの原画だ。
この頃のカラー原稿は現在のものと異なり、かなりグアッシュの厚塗りをしていて、あまり対象物の輪郭を線で描くようなことはなく面で塗り分けられ、それこそ絵画的なタッチで描かれている。
素晴らしい。本当に素晴らしい筆の運びであるし、大胆な色遣いにも関わらず、細部を見ると非常に繊細な塗り分けと描き込みがなされていて、これをまねしようとしていた自分がいかに愚かだったか思い知らされる。そしてしばらくじっと見ていると、当時ずっと見続けたあの頃の自分の気持ちを思い出し、その絵の原画が目の前にあることに涙が出そうになった。
間違っても自分の絵ではかなうわけもないけれど…もとより上を行こうなんて思うはずもないのだけれど、またイラストを描いてみたくなってしまった。最近は絵を描くにも、もっぱらデジタルだ。やはり画用紙やキャンソンに筆を握って絵を描く…その楽しみを思い出させてくれた原画展だった。
初めまして。
生原稿が見られるのはすごいですね!
一度お目にかかりたいです。
by 師子乃 (2020-05-01 15:06)