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『日本沈没』 [Cinema]

※映画の感想・評論(もどき)の文章では基本的にストーリーに触れる部分があるため未見の方はご注意を。

2006年「日本沈没」製作委員会
監督:樋口真嗣
原作:小松左京
出演:草なぎ剛/柴崎コウ/及川光博/福田麻由子/吉田日出子/石坂浩二/豊川悦司/大地真生
評価:★★☆☆☆

昔の作品も過去に見たことがあったのだけれど、詳細な部分はすっかり忘れてしまっていたら、たまたま前日スカパーの日本映画専門チャンネルで放送されたので見た。
 

日本沈没

日本沈没

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2003/09/25
  • メディア: DVD


現代の目で見ればそれはそれは特撮はまあ作られたものとわかる映像ではある。しかしながら当時としては東宝特撮の総力をあげた映像だったのだろう。それだけの力が入ったものだというのはよくわかる。特に物語の中盤、東京に大地震が襲ってきた時のミニチュアの完成度は素晴らしい。

そしてそうしたパニック映像よりも素晴らしかったのは物語の方だろう。日本の国土がなくなることに対して、政治家が国際社会とどう向き合っていくのか、また日本人がそのことをどう捉えていくのか。丹波哲郎演じる山本総理の日本に対する思い、そして日本が沈没すると最初に警告を出した田所博士の日本への思い。そして新作では役自体がなくなっていた渡老人の思い。そういう部分がしっかりと描かれていることによって、我々日本人が日本という国土についてあらためて考えさせられるものとなっていたように思う。

ところが、新作はそれが全く逆となっているのだ。特撮映像は現代日本映画の中では素晴らしい部類にはいるだろう。一部津波の場面など、寄りの映像になると若干まだまだと思わせるところもなくはないのだが、それでもかなりの迫力ある映像で、災害の恐怖を感じさせるものとなっているのは確かだ。

だが、そうした映像とは裏腹に、逃げる群衆にあまり危機感を感じないのはなぜだろう。やはり実態としてそういう恐怖を味わったことのないエキストラでは、待ちが崩壊していく恐怖を表情に表しながら逃げまどうなどというのは無理なのであろうか。確かに『ゴジラ』第1作の頃はまだ戦争を体験した人たちが多くいたこともあって、逃げまどう群衆の表情には真に迫るものがあったというけれど、それを今を生きる人たちに求めるのは酷なのかも知れない。けれどそうした部分が作品に命を吹き込むのだとしたら、製作サイドもこういうモブシーンについては何か方策を考えねばなるまい。

さらにストーリー全体にも問題有りだ。一番の問題は日本が沈没しないことだ。なぜ日本を救うストーリーにしたのだろうか。これではことの本質が見えてこないだろう。命を投げ打つヒーローが必要だったのだろうか。『アルマゲドン』を作りたかったのだろうか?

けれどそういうプロットで観客を感動させようと思うのなら、それはこの『日本沈没』という題材でやることではないような気がするのだ。やはり国土が消滅することによる恐怖、政府の対応、諸外国の日本に対する対応…そういうことをこそここではじっくり描いて欲しいのだ。SFであって娯楽作品ではあるけれども、そういう意味において社会派ドラマとしてのこの作品の一面をしっかり描ききることが大事だったのになあ、と見終わって映像に迫力があっただけに残念だった。

そして主人公の小野寺の性格付けにも問題はないか。急に命を投げ出そうとする気持ちの変化が伝わりにくい。もしかすると地元に帰って母親に会って、またさまよっている時に出会った死んだ子を背負った女性を見て、そして「ひょっとこ」の人たちや美咲と会って…なにより愛する玲子のことを考えて、皆を救うために命を投げ出そうと考えたのかも知れない。それはまあ見ていればそうなのだろうなと流れではわからなくもないのだけれども、説得力に欠けるのだ。

でまあ、そこになんとか説得力を持たせようとするあまり、そのあたりの場面が妙に長く、中盤ダレるのが気になった。それもこれも日本を救える方法があるのだというストーリーにしてしまったことの弊害ではないかと思うのだ。

さらに細かいかも知れないが気になった点がいくつかある。
・総理大臣を早々に事故死させてしまうのは上記のストーリー展開の点からも疑問。国の行く末について政府がどう舵を取っていくのかをしっかり見せて欲しかった。
・日本沈没の警告がアメリカ人によるものというのも情けない。地震予知などについては世界的に見ても日本はかなり進んでいると聞く。またストーリーの上でも田所博士がその警告を出すという形にしないと、その後でよく調査したら1年以内に沈没すると警告を出せた説得力にも欠けるような気がする。
・小野寺が街をさまよう場面の交通手段はなんなのか。どうしてあのようにあっちこっちに現れることが可能なのか。そりゃあ無理だろうよ、という冷めた目でしか見れなくなってしまう表現は、物語のリアルさを阻害する要因だ。
・日本映画の良くない点かもしれないけれど、役者をもっと汚そう。柴崎コウはレスキュー活動している割りには綺麗すぎだろう。顔を少し汚したくらいでは現実感がなさすぎだ。髪の毛だってあんなに長い髪をあの災害の中でどうしていつまでもサラサラでいられるのか。またあっちこっち移動している草なぎ剛もそうだ。白いジャッケトなんか着ているけれど、どうみても災害には遭ってないような姿だ。一方でラストシーン、「ひょっとこ」に人たちが火山灰を浴びてまっ白になっている姿はリアルでよいのだが、柴崎コウ演じる玲子が助けにきてみんなで抱き合っている時には、その灰はどこかに消えちゃっているのも奇妙な感じがした。アップになるから少しでも綺麗にしたというのなら間違いだろう。興醒めな処理だと思う。
・主題歌が途中で大仰に流れるのも、過剰な演出だと感じた。なにかこう感動させようという作為が見えるので、却って冷めてしまうのだ。
・世界中から深海掘削船が一気に集まってくるのも不思議だ。いつ交渉して各国がどう反応して船を出すことに同意したのかが見えない。もちろんその点をそれ程細かく描かなくてもいいのだが、その前に既に移住した日本人と現地の人々との軋轢のニュースが報じられているのを映しているわけだから、そんなに簡単に各国が貴重な深海掘削船をよこすとも思えないのだ。しかも船だ。飛行機ではないのだ。移動にだって時間はかかるだろう。どうやったらあんなに一斉に集まってこれるのだろうか。そして深海掘削船をあれだけ早く集められたのなら、最初の起爆装置の仕掛けに失敗した時点で、どうしてすぐに諸外国に深海潜水艇の貸し出し要請をしないのか。その辺が疑問だ。やはり結局は旧式の「わだつみ2000」を使って一方通行の旅に主人公を向かわせたいというストーリーの流れが先にあって、そこに集約させるためにあちらこちら無理が出たというのが真相なのではないだろうか。
・仕掛けた爆弾を爆発させる起爆装置をなぜあんな危険な方法でしかセットできないのかが腑に落ちない。単にドラマを盛り上げるためか?
・その爆弾でプレートを分断させて沈没する日本を救うというのだが、これも大丈夫なのだろうかという疑念が拭えない。素人考えでは、日本の多くの地震というのは、太平洋プレートに引きずられた日本列島のプレートが、ある時ボヨンと跳ね上がることによって発生するっていうそのことを考慮に入れると、あの爆発によってプレートが分断された瞬間に、日本列島に凄まじい激震が走って、さらに激しい災害をもたらすんじゃないかと気が気ではなかったのだけど、そんなことはなくかなり平穏にマグマが退いていって終わってしまった。オブザーバーで参加している学者さんたちは、この点はどう考えたのかな。作家が強引に進めちゃったのかな。

期待しただけの映像の迫力はあった。音響効果も良かったと思う。しかしストーリーの根本に問題を残した作品となったように思う。返す返すもそこが残念。

日本沈没 上    小学館文庫 こ 11-1

日本沈没 上 小学館文庫 こ 11-1

  • 作者: 小松 左京
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/12/06
  • メディア: 文庫

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コメント 3

MANTA

>その爆弾でプレートを分断させて沈没する日本を救うというのだが、これも大丈夫なのだろうかという疑念が拭えない
私もそうおもいますー。というかその前に自然に地震が起きてるから爆弾いらないとおもうんだけど… 当ブログでも感想や妄想記事を書いておりますー。
by MANTA (2006-07-23 16:23) 

OHARIKO

はじめまして。私もみてきました。『日本沈没』。
自分がいただけない、と感じていた部分がピックアップされています。
評価に賛同でございます。
日本人として、感情移入しにくい不出来な「アルマゲドン」でした。
「アルマゲドン」を持ち上げる訳ではないのですが。
ヘリの絡む二つのシーンが、特に興醒めな演出だったと思います。
近頃、映画に限らず「感動してね」という押し付けが増えていると思いませんか?
by OHARIKO (2006-07-23 21:18) 

MK

コメント&nice!ありがとうございます。

>MANTAさん
そうですよねえ。かなり激しい地震が起こると思うんですけど、その辺の描写が全くないのに不自然さが拭えなかったのですよ。

>小梅さん
映画もテレビも「これで泣け!」みたいな演出は僕も大嫌いです。ホントに感動する作品は自然と涙が出るものですよね。ワールドカップなんかでもそうでしたけど、これを夢中にならなくてどうする、とか、始まったばかりのテレビドラマの番宣で、感動の嵐!とか、大きなお世話ですよ、全く。
by MK (2006-07-27 01:34) 

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