SSブログ

『崖の上のポニョ』 [Cinema]

※映画の感想・評論(もどき)の文章では基本的にストーリーに触れる部分があるため未見の方はご注意を。

2008年スタジオジブリ・日本テレビ・電通・博報堂DYMP・ディズニー・三菱商事・東宝
原作・脚本・監督:宮崎駿
音楽:久石譲
声の出演:山口智子/長嶋一茂/天海祐希/所ジョージ/奈良柚莉愛/土井洋輝/柊瑠美/矢野顕子/吉行和子/奈良岡朋子
評価:★★★★★

先日NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で通常枠を超えてスペシャルとして「宮崎駿のすべて〜「ポニョ」密着300日〜」というのが放送された。朝、新聞を見てこの番組を知り、とても気になったのでひとまず録画しておいたのだ。けれどその新聞の番組紹介文の中に、映画のラストに触れるところがあるので未見の方は云々…と書かれてあったから、録画したまま見ないでいたのだった。

気になる。とても気になる番組だったので、早く見たくて今日映画を見てきた。あ、いや、映画は元々見たかったのだ。ドキュメンタリーを見たいが為に映画を見たわけではないのだ。一応。
 
スタジオジブリ絵コンテ全集 (16)

スタジオジブリ絵コンテ全集 (16)

  • 作者: 宮崎 駿
  • 出版社/メーカー: スタジオジブリ
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本

 
宮崎駿の作品はいつの頃からか全国民が待ち望む映画のような雰囲気になってしまった。そのことは決して悪いこととは思わないけれど、過剰な期待が重荷になったり、ずいぶんと考えすぎのような映画になったりしてきた面はないかなと感じていた。特に前作の『ハウルの動く城』は正直その映像の精密さには驚かされたものの、作品の内容自体がスッと体に入ってくる感じはなく、ちょっと残念な印象があったからだ。

今回、事前情報はほとんど目にしないようにしていたのだけれど、昔の“漫画映画”のイメージを取り戻そうとしているというような話は聞いていたので、かつて東映まんがまつりのオリジナル長編で上映された『長靴をはいた猫』『どうぶつ宝島』のような底抜けに楽しめる作品か、近作でも『となりのトトロ』のように過剰なテーマ性が前面に出すぎない子供が感覚で楽しめる映画になっているのではないかと想像していた。

さて、感想だが…いまだになんと言って言葉に表したらいいのか、それがよく見つからないでいる。とにかく悪人は出てこないし、変に疑り深い人物も出てこない。不思議な出来事も普通に受け入れてしまうファンタジックな世界だし、見るものもそれを理屈でなく受け入れてしまうしかない。というか見ている最中、あんまりそういう理屈を考えることをしないで最後まで観ることができたのだ。不思議なのだけど、とにかくいろいろな場面で涙腺を刺激して涙が出てきたし、これはなんだろうと考えてもみたのだけど、子供が発する純粋な行動や感情がストレートに溢れていて、特にそういう場面が胸に突き刺さるように感情を揺さぶってきたのだ。

一例を挙げれば、ポニョが父親のフジモトに連れ戻され、消えてしまったポニョを探して泣き叫ぶ宗介の場面や、人間になったポニョが宗介のもとに向かうため波の上を走っている場面やそのあとようやく再会した宗介に跳びついておもいっきり抱きしめるところ…あげればきりがないけれど、子供がちょっとしたことに気づき驚き感動するその感情や仕草をとても繊細な表現で表しているところにとにかく感心するし、『となりのトトロ』でもそうだったけれどそういう細かい動きの演出はあんまり観ている時は特に意識しないで自然に表現されているというところがまたすごいなと思う。

で、このあたりのところは最初にあげたNHKの「宮崎駿のすべて〜「ポニョ」密着300日〜」で、そうしたキャラクターの表情や動きに、人一倍の神経を使い、相手がベテランアニメーターであろうが強烈にダメ出しをし、すべてのカットをチェックして修正するという気の遠くなる作業を通じてあれだけの作品に仕上がっていくのだと納得。もともと中学・高校時代にファーストガンダム劇場版から発生した第二次アニメブームに身をさらした自分にとっては、高畑勲・宮崎駿・大塚康生らの映画製作過程における仕事ぶりというのは、当時急激に増えたアニメ関連本などで知ってはいたけれど、映像として、その現場をみるのは今回が初めてだったので、67歳にしてあのパワーと、作品の完成度に対するこだわりというのがひしひしと伝わってきて、これは後に続くアニメーターで、はたしてここまでの人はいるだろうかと、高畑・宮崎・大塚世代の人たちがいなくなったあとの日本のアニメ界がどうなっていくか、本当に心配になってしまった。

ただアニメが好きというだけではあそこまでとてもできないし、そういうアニメ好きがアニメ付きのための作品を作り続けて何となくおしゃれな感じの日本のアニメが海外でも受けて、ちょっと勘違いをしちゃっているなという印象をずっと感じているのだけれど、そうではない本当に子供が楽しめる作品を丹念な絵作りで描いていく職人気質のクリエイターが出現しないと、あるいは後継者が育っていかないと、ちょっと先行き心配どころではないなあという思いが涌いてくるのだ。

話が大分それてしまったが、今回の作品に関していうと、後から考えれば消化不良とか説明不足とかいろいろ言いたくなるところは確かに出てくる。出てくるのだが、たぶん明らかにそういう理屈ではないところで感じる映画なだろうと思うし、少なくとも自分自身は、本当に未だ説明できない感情を刺激されて…それは手書きアニメの映像のすごさなのか、人物などの細かい描写によるものなのかわからないけれど、見終わって相当放心した感じになったし楽しく鑑賞することができた。こうした感覚になったのは宮崎作品では『となりのトトロ』以来だ。

ジブリ作品としてみると最近の作品群から期待される方向性にこの作品はないし、その意味で期待はずれやら意味不明やらいろいろ言われても仕方ないところもあるかもしれない。でもご都合主義的な理屈を付けて無理矢理ストーリーを明瞭にしようとしなかったところにこの作品のねらいはあるような気がするのだ。

楽しかった。泣けた。ここ何作かは巨匠然とした作品で肩がこる感じはあったけれど、これ観て宮崎駿はすごいってあらためて思った。傑作。
 
崖の上のポニョ サウンドトラック

崖の上のポニョ サウンドトラック

  • アーティスト: 久石譲,久石譲,覚和歌子,近藤勝也,宮崎駿,サントラ
  • 出版社/メーカー: 徳間ジャパンコミュニケーションズ
  • 発売日: 2008/07/16
  • メディア: CD


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。