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『その夜明け、嘘。』 [Play]

いつの間にか“国民的女優”と呼ばれるようになってしまった宮崎あおい主演の舞台『その夜明け、嘘。』を観てきた。脚本、演出は福原充則。

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以前『星の王子さま』の舞台に出演した時は、もう少しチケットがとりやすかった(公演中でも買えたかな)気がするのだけど、今回は大河ドラマ『篤姫』効果か、前売り速完売。追加席も直ぐに完売。会場が青山円形劇場というキャパの小さい劇場だということもあるのだろうが、どちらかというとわかりやすそうな芝居でもないのにこの売れゆきは言ってみれば明らかに“宮崎あおい効果”なのだろう。公演自体は事前に知っていたので観に行きたいと思っていたのに、チケット発売日をうっかり見逃していたらもう買えなくて、仕方ないのでオークションで入手した。かなり割高な出費になってしまったが果たしてそれだけの価値はあっただろうか。

その会場の青山円形劇場は、どういう劇場かは知っていたけど今回が初めて。劇場内に入ると想像していたよりも小さいのに驚き。350人ちょっとのキャパだからこんなものなんだろうけれど、最後列でも5列目だから役者の熱気が直接伝わってくる空間で表情も見やすく、これはいいかも。ただ、この円形の空間をうまく生かす演出じゃないと難しいかもしれない。

その舞台。中心に自転車が1台。そして街灯のついた電柱と信号機、道路標識が舞台に倒れて配置されている。事前に若手漫画家が深夜に環状7号線を疾走する…というような漠然とした話は知っていたので、そのための装置だなというのは想像できた。

出演は宮崎あおいの他、吉本菜穂子と六角精児の3人だけ。高校生でデビューして天才漫画家と言われた若手漫画家が最近は人気も低迷してスランプ気味。締め切りも過ぎているのにアイデアが出ず、深夜にアシスタントを連れて逃亡。それを担当編集者が追いかけるというストーリーを軸に、途中立ち寄るファミレスの店長と店員の話だったり、妄想の中の田舎から出てきたパンクロッカー“シド&ナンシー”の物語や、編集者のあきる野とその妻子の話などが絡み合い、それら全ての登場人物を目まぐるしく3人が演じ分けるというもの。

そのスピード感とテンポにぐいぐい引き込まれて、しかもほどよく笑いの要素が盛り込まれとても楽しく見ることができた。西武新宿線沿線に住んでいるものとしては「野方ネタ」などはツボだったし、物語が妄想(漫画家の考えているネタの話)と現実の境界が曖昧なのをのぞけば複雑すぎるということもなかった。

ただ、その曖昧模糊とした散漫なエピソードの積み重ねのまま終わってしまったので、なんとなくメリハリに欠け、後半少し見ていて集中力がそがれてきたのが残念ではある。編集者が漫画家に頑張ってもらわないと生活が成り立たなくなるという話をしたところで、その編集者の妻が「あなたは何するの?頼るだけ?」と問いかけしたのは、なんとなくこの作品のテーマらしきものとして、お、ここから盛り上がるのかな?と思ったのだけど、案外サラッと流してしまったのでちょっと肩すかしな感じだった。

でもそうした点を十分すぎるくらいに補える程、役者のパワーはすごかった。宮崎あおい目当ての観客も多かったと思うが、たぶん観た後は吉本菜穂子と六角精児の二人の余韻の方が強く残っているのではないだろうか。特に吉本菜穂子はよかった。アシスタントの虐げられても漫画家を尊敬してついていこうとする健気な感じや、ナンシーのシドに惚れ込んでいるけど田舎に帰った後のその恋を思い出として封じ込めようとする姿などはとても印象的で心に響く演技だった。

六角精児は舞台の盛り上げ役としてとにかく力強くパワフル。ファミレスの店長役は不条理ながらも忙しく働いて会社と家とTSUTAYAのトライアングルから抜け出せないという現代ビジネスマンの心の悩みを体現していたように思う。

さて宮崎あおいだ。上記二人に比べると線の細さは仕方がない。声の強さも二人には及ばないのだが、身体全体が発するオーラはやはり天性の女優のものだろうか。観客の目を引きつける魅力というのは単に可愛いからということだけではないのだろう。驚いたのは多くの役を瞬時に演じ分ける今回の芝居で、それをキッチリこなせていたということだ。漫画家の毒がありながらも可愛らしい愛嬌のある声や演技から、シドの男っぽさ、編集者の妻や母としての顔、さらに細かい役だけれどもナンシーが田舎に帰ってから働いているバーの従業員でたぶんそのナンシーの友達でもあろうその役で、シドからの手紙を読んでいるナンシーに声をかけたりする時の演技がいかにも田舎の垢抜けない感じの女性の雰囲気になっていて、その替わりっぷりには脱帽だった。あと涙の精という不可思議キャラもよかったかな。

“国民的女優”として注目されても、これからもあまり安っぽく簡易に作られるテレビドラマには出て欲しくないし、できれば映画中心に活躍して、時折こうして舞台にも出たりするといいのではないだろうか。というかもっと舞台での活躍(大劇場のものではなくて、できるだけ今回のようなこじんまりしたステージで)も観てみたいな。



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